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広島家庭裁判所 昭和53年(少)700号 決定 1978年7月29日

少年 K・Y(昭三八・四・三生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

1  (1) A、B、Cと共謀のうえ、昭和五三年五月二九日午後六時頃、広島市○○×丁目××番×号○○ビル×××号A方において、トルエン、酢酸エチル、メタノールを含有するシンナーをみだりに吸入し

(2) D、E子、Bと共謀のうえ、同年六月六日午後五時三〇分頃同市×町××番×号○○アパート屋上において、酢酸エチル、トルエンを含有するシンナーをみだりに吸入し

2  同年六月一二日午後七時頃、同市同町××番×号、○○アパート×○○○一階駐車場において、H所有の第一種原動機付自転車一台(時価二万円相当)を窃取し

3  B、Fと共謀のうえ

(1)  同年六月二九日午前九時一五分頃、同市○○町×番×号○○ビル前路上においてI所有の自転車一台(時価四万五、〇〇〇円相当)を窃取し

(2)  同日午前九時二〇分頃、同市○○町×番××号喫茶店「○○○○」前路上において、何者かに盗まれ放置されていたJ所有の自転車一台(時価一万円相当)を発見したが、それが他人の所有物であることを知りながら、正規の届出をなすことなく、自己の乗用に供する目的でこれを拾得横領し

4  公安委員会の運転免許を受けないで、同年六月一三日午前三時一〇分頃、同市○○町×番×号先路上において、第一種原動機付自転車を運転し

たものである。

(なお、本件ぐ犯事件については、そのぐ犯性が現実化して上記犯罪行為に至つたことが認められる以上、これを別個に処遇の対象とすることは相当でないので、非行事実としてこれを認定しない。)

(法令の適用)

上記1の各事実につき 毒物及び劇物取締法三条の三、二四条の四、刑法六〇条

2の事実につき 刑法二三五条

3の(1)の事実につき 同法二三五条、六〇条

3の(2)の事実につき 同法二五四条、六〇条

4の事実につき 道路交通法六四条、一一八条一項一号

(処遇の理由)

1  少年の家裁係属歴は、中学二年時の昭和五二年九月になした強制わいせつ事件で翌五三年一月不処分となつたのみであるが、少年はすでに小学四年頃から窃盗非行がみられ、以後小学校卒業までの間毎年のように窃盗事件を犯し、解法少年として五回にわたり児童相談所に事件通告され、また中学入学後も一年時の昭和五二年三月占有離脱物横領で同じく児童相談所に通告されて、いずれも訓戒の措置を受けるなど、非行の発見はかなり早く、しかも相当長期間継続していて、その間幾度か学校や関係機関からの指導措置がなされたにもかかわらず本件非行に及んだことは、少年の問題性改善の困難さを窺わせるものがある。

2  少年については、小学校高学年頃から、粗暴な言動が多く共同生活ができないこと、下校後の交友関係に問題があることが指適されており、中学入学後も一年時には、上記事件を除けば、学内での格別の問題行動はなかつたものの、二年時になると、服装の乱れや喫煙、シンナー吸引などが見られ、二年の夏頃には他校中学生との集団抗争未遂事件(事件そのものは教師が事前に察知し補導したため事無きを得た)に関与したり、上記強制わいせつ事件を起したことなどから、学校側では担任教師を中心として少年に対する特別の指導体制をとり、放課後の個別学習によつて学力の向上を図ると共に、班活動を通じて学校適応への努力を重ね、その結果三年進級の前後頃には、学内においてはやや学習意欲も見せ始め、教科学習以外の課外活動、学校行事などには積極的に参加し協力的な面を見せるなどの変化改善が見られるようになつていた。

しかしながら、一方校外での交友関係については為然不良交遊を断ち切ることができず、二年の夏頃から外泊が度々あつたほか、シンナー吸引も続き三年進級後の昭和五三年五月初頃には少年が中心となつて「×××」と称する不良グループ(のちに「○○○」と改称)を結成するなどしており、修学旅行終了直後にささいなことから家出して以来というものは急速に生活が崩れ、殆んど登校しないばかりでなく、グループ員宅を転々外泊しながら喫煙、シンナー吸引(少年は鑑別調査の過程では二年時の夏以降相当数に及ぶと述べている)不純異性交遊などを繰り返すうち本件非行に及んだものである。

3  少年の家庭は、父が便利大工として働き、母もパートタイマーとして働く共働き家庭であり、少年は小学四年頃まで祖母の手で溺愛・庇護されて養育されたためか小学校入学当初から乱暴な言動や嘘言が多く注意されても改めないなどの問題点が指摘されており、祖母死亡後も父は放任的で、母も少年の問題点の改善に努力するよりも対学校・対社会との関係で少年をかばいだてする面が強く、そうした家庭の指導態度の影響を受けて、少年には規律性や協調性に欠ける点、内省力が乏しく嘘言を用いて自己防衛しようとする点などが強く見うけられる。

4  以上の問題点を有する少年ではあるが、本件調査及び審判の過程を通じて、父は従前の放任的態度を改めることを誓い、母も従来の防衛的態度を改め父や学校側と協力して少年の指導にあたることを誓うなどの変化が見られ、また学校側からも担任教師を中心として再度学校教育の場での指導に委ねられたいとの希望がなされたこともあつて、当裁判所としては、少年がいまだ義務教育課程にあり、少年の更生を図るには第一次的には家庭・学校・地域での協力・指導の強化にまつべきものとの考慮から、昭和五三年七月二四日少年を在宅試験観察に付することとした。

ところが、少年は、帰宅した当夜から無断外泊し、父母が深すなかを数日間帰宅せず、同月二七日には上記「○○○」のグループ員らと出所祝いと称してビールパーティを開き、参加者中女生徒二名が急性アルコール中毒で入院する騒ぎとなるなど無軌道な生活を繰り返す有様で、現在では父母・学校側とも在宅での指導は困難との思いが強い。

5  以上の諸事情、とくに少年の性格、問題点、非行性の程度、試験観察の経過等に照せば、少年をこのまま学校に再復帰させることは相当でなく、この際一定期間施設に収容して、学外における不良交友との関係を断ち切り、新しい生活環境下で基礎的学力の修得を図りつつ、進学・就職等の将来の生活目標を明確化させ、それに応じた進路指導と生活訓練を施したうえ社会復帰を図ることが望ましい方策と思料される。

(なお、少年の問題性とその改善の困難さを考慮すると、短期間の収容教育による矯正には余り多くを期待できず、ある程度長期にわたる収容処遇もやむを得ないものとは思料されるが、少年はいまだ義務教育課程にあり来年卒業期を迎えること、円滑な社会復帰を期するうえにおいてはできるだけ同級生らが進学・就職するのと同時期に出院できることが望ましいことなどを考え合わせると、処遇経過はこれを充分ふまえつつも、来春の進学あるいは就職時期とほぼ同時期に仮退院できるよう特に配慮されたい。)

6  よつて、少年を初等少年院に送致することとし、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 小原卓雄)

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